恋愛・人間関係
武田砂鉄「どうしていつまでもこうなのか」

武田砂鉄【あの発言から考える】意味を理解せずに「#(ハッシュタグ)」を使う人たち

10月11日は、アメリカを発祥とする国際カミングアウトデー。LGBTQの人々を祝いながら、その歴史を知り、権利を求め、社会の変化を促す日である。もちろん、カミングアウトを強制するわけではない。まだまだ日本では認知度が低いものの、この数年で知られるようになってきた。そんななか、「#国際カミングアウトデー」など関連するハッシュタグを使った企業や団体のツイートが、いくつも問題視された。
たとえば、花王の「メリット」のアカウントが「#メリット ってどんなシャンプーなのか知らんし。というあなたに話しかけています。実は…#ノンシリコーン シャンプーなんですよ。#国際カミングアウトデー ということで、みなさんが知らなそうなことをカミングアウトしてみました。。。」とツイートした。

あるいは、自衛隊大阪地方協力本部のアカウントが、「今日は『カミングアウトデー』 ありのままの自分を #カミングアウト するきっかけの日なんや!というわけで、まもるもカミングアウトするで~」「『実はな… #ほふく前進 得意やねん!』 そやけど『服汚れる』って怒られるから、やったらあかんねん」「ちなみに #妖精 でもあるで!」とツイートしている。
意味も経緯も知らずに便乗したのだろう。花王は「このたびは、『国際カミングアウトデー』を正しく理解せず、思慮に欠けた投稿をしたことについて、深くお詫び申し上げます」と、自衛隊大阪地方協力本部は「この度の件、『国際カミングアウトデー』の意味をよく理解せず、誤解をまねくような投稿をしてしまい申し訳ありませんでした」と、それぞれ謝罪している。

2つのことに驚く。まずは、ちっとも理解していなかったこと。そして、ちっとも理解していないのにツイートしていたこと。「誤解をまねくような」と、受け取る側の問題にしたがる自衛隊大阪地方協力本部の謝罪により呆れるが、いずれにせよ、「国際カミングアウトデー」と検索すれば、意味や経緯を調べられるというのに、それさえせず、今、その瞬間に流行っている出来事に乗っかってしまう。
企業や団体のSNSアカウントは極めて少人数で運営されている場合が多い。だが、問題視されるツイートを投じた瞬間、企業全体の問題と捉えられるので、よほど慎重な投稿が求められる。それでも、この手の投稿は繰り返される。日頃から、その時々のブームに乗っかりながら「正しく理解せず」「意味をよく理解せず」にツイートしてきたのだとすると、ようやく声をあげられるようになった人たちのハッシュタグ・アクティヴィズムを、あちこちで脆弱化させてきたのかもしれない。

政治家に対して、そして、企業や団体に対して、「もうちょっとちゃんと考えてよ」と思う機会が多い。声が可視化されやすくなった社会なのに、まだまだそれを受け止めようとしない。自分たちの利益になりそうな時にだけ前のめりになる。「実際本当に起こっているか、確認しようがない」と断じた冷たさを思い出す。「意味をよく理解せず」にツイートするのは、なんだか、それにとてもよく似ている。

PROFILE

武田砂鉄/たけださてつ
1982年、東京生まれ。出版社勤務を経て、ライターに。『紋切型社会ー言葉で固まる現代社会を解きほぐす』(朝日出版社)で第25回Bunkamuraドゥマゴ文学賞などを受賞。著書に『日本の気配』(晶文社/ちくま文庫)、『マチズモを削り取れ』(集英社)ほか、最新刊に『べつに怒ってない』(筑摩書房)がある。多数の雑誌にて連載を執筆しているほか、「アシタノカレッジ」(TBSラジオ)等でラジオパーソナリティも務めている。

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