連載第9回【武田砂鉄 どうしていつまでもこうなのか】〜あの発言から考える〜
今回のテーマは、「女性の働き方を軽視するのは誰か」。これまでは常識だとして“スルー”していたさまざまな問題を、私たち自身の将来のため、そしてこのあとの世代のために、ちょっと考えてみませんか?
「女性の働き方を軽視するのは誰か」
以前、1988年から2009年まで続いていた映画『釣りバカ日誌』をすべて観て考察する記事を書いたことがある。建設会社を舞台にしたこの作品を続けて観ると、描かれる社内の雰囲気が変化しているのがわかる。1988年に公開された1作目の『釣りバカ日誌』では、破けてしまったズボンを女性社員に縫ってもらおうとする課長が登場する。
その依頼自体がハラスメントだが、課長はその場でズボンを脱いでしまう。いきなり脱いだ課長に驚き、大声で叫んだ女性社員の声を聞き、みんなが集まってくる。ズボンを脱いで何をするつもりだったのかと疑われた課長は逆ギレし、「いくら私が物好きでも、こんな鶏ガラみたいな女、相手にするか!」と怒鳴る。
最低のハラスメント発言だが、これに近い環境が現実にも存在したからこそ、映画の一コマとして盛り込まれたのだろう。作品を見続けていると、2006年の『釣りバカ日誌17』では、女性社員再雇用制度を利用して復帰したものの、離婚していたことが社内に周知されておらず、結婚後の名字を呼ばれてしまって動揺する女性社員が登場する。その対応は問題だが、制度自体は1作目のころにはありえなかったから、この20年ほどで、作り手の意識も、もちろん観る側の感覚も変化したことがわかる。
どんな時代も「昔と比べれば」という枕詞を使えば「まだマシ」になるのだろうけれど、2000年代になっても男女の雇用機会は均等ではなかったし、扱いも均等ではなかった。日本のジェンダーギャップ指数が主要先進国で最下位なのは政治と経済の分野が大きな要因となり続けているが、なかなか改善に向かわない。