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編集部|ピープル

『ぼくイエ』で描けなかった“見えない存在”にされている子供たち。ブレイディみかこが初小説に込めたもの

人種差別や貧富の差が広がる、イギリスの“底辺”中学校に通う息子の日常を綴った、累計100万部を突破した『ぼくはイエローでホワイトで、ちょっとブルー』(新潮社/以下、『ぼくイエ』)。著者のブレイディみかこさんは、1996年からイギリスに渡り、一貫して“格差社会の現実”を描き続けている。そんなブレイディさんの最新作『両手にトカレフ』(ポプラ社)は、初となる長編小説。『ぼくイエ』では描けなかった、“現実を超えるリアル”に挑んだというブレイディさん。本作の刊行を記念して、全4回にわたってインタビュー。本作にこめたもの、そして日本人が変えるべき意識とは――。

息子からの『ぼくイエ』の感想で気づかされたこと

――近年、日本でも、子供の貧困が深刻な社会問題となっています。小説『両手にトカレフ』の舞台はイギリスですが、14歳の少女・ミアもまた、母子家庭ゆえの貧困、母親の薬物依存、幼い弟がいるためにヤングケアラーとならざるをえない現実に苦しんでいます。なぜ、彼女を主人公に物語を描こうと思ったのでしょうか。

『ぼくイエ』は、イギリスのブライトンという町を舞台に、中学校に通う息子を通じて、貧富の差や人種差別など、さまざまな問題に向き合っていく本でした。息子が通っていたのは、もともと地域のスクールランキングで最下位の学校。非常に素行の悪い生徒がいるなど、かなり評判の悪い、いわゆる“底辺”の中学校だったんですね。そこに新しい校長先生がやってきて、子供たちが放課後、めいっぱいクラブ活動に打ち込める環境を整えた。

たとえば音楽部では、機材をそろえるどころか、レコーディングスタジオまでつくって、バンド活動もストリートダンスもやりたい放題。そうしたら生徒たちの素行がよくなって、なぜか成績もみるみるうちに伸びて、今ではランキングの中位くらいにまであがった。……ということも描いたんですけれど、それを読んだ息子が「これは幸福な少年の話だね」と言ったんです。「学校には、クラブ活動すらできない子たちがたくさんいるのに、彼らの話は出てこない。そういう意味で、この本は“リアルじゃない”よね」と。
 
――現実の、きれいなところばかりを掬いとっていると。

確かに、息子の言うとおりなんですよ。『ぼくイエ』はノンフィクションだったので、本当に深刻な問題を抱えている子たちが、現実に巻き込まれている問題について、気軽な気持ちで書くことはできなかった。それだけでなく、無意識に、彼らを見えない存在にしてしまっていたのではないかと気づいて、ショックを受けました。というのも、私自身が貧困家庭で育った子供だったんですね。たとえば高校生時代、定期代もアルバイトをしなきゃ手に入れられなかったんだけれど、私の通っていた高校はアルバイト禁止。先生にアルバイトしていたことがバレて、「なんでバイトなんかしてるんだ」と詰め寄られたとき、「定期代を自分で払わないといけないから」と答えたら「今時、そんな家庭があるわけない」と言われてしまった。当時は、日本が“一億総中流”といわれていた、今よりももっと裕福な時代でしたし、通っていたのは進学校で恵まれた家庭の子供たちが多かったから、先生は本当に信じられなかったんでしょう。

――でもその“あるわけない”場所に、ブレイディさんはいた。

そのときの、目の前にいるのに見えない存在にされてしまったときの記憶が、とても強く残っているはずなのに、私自身も、『ぼくイエ』を通じて、見えない存在を生み出してしまったのではないか、と深く考えさせられました。そんなふうに、ないものとされてしまったら、家庭のなかで本当は何が起きているかなんて、誰にも言えなくなってしまう。言えないから、誰も知ることができずに、見えないまま置き去りにされてしまう。そんなことを考えたのが、一つのきっかけでした。
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