vol.35「お腹いっぱい」
気持ちいいなと感じる香り、肌触りや音楽、温度やひととの距離感。全てに近いいろいろなものに一人ひとりのさじ加減があります。皆が一列に揃わないこのばらつき。この世の中の彩りは、こうした「違い」が作っているのだなと面白さを感じます。
それと少し似ているのだけど、「さじ加減」というくくりで、常に私の頭の中に浮かぶのが、「今どれぐらいのお腹加減だろう?」。
毎日の食事はもちろん、仕事でもなんでも、目の前にいる人のお腹が気になって仕方ない。減っていないか? 満たされているか? おかわりはどうだろう? その人の表情や言葉からにじむニュアンスを読み解きながら、追加したり、そっと引きあげたりする。
この対談の大テーマは「おばちゃん」。ざっくりいうと、おばちゃんはおばちゃんで最高だよねっ、という話。その中で、「おばちゃんの何が最高かっていったら、誰の機嫌も取らなくていい、ってことですよ」と、その方が軽やかに言い放つわけです。これがね、もう心底清々しくて。わからないひと、槍を投げつけてくるひと、そんなひとたちのことは気にせず、とにかく置いていけばいいと。そうそう、本当、そうなんだよな。誰もが簡単に、無責任な言葉まで投げかけることができる時代。だから、時に聞かない、拾わない、そんな選択が大切になってくる。自分や自分の楽しみを守るために、必要ないことはしなくていい。わかってはいても、なかなかそれができない自分に、この方のこの言葉がまるで鍼灸治療の鍼みたいに鋭く、トントンと神経をついてくる。
置いていく代わりに私がしていることと言ったら、「お腹いっぱいにして帰すこと」。とにかく、いつだって、誰にだって、お腹いっっっぱいになって帰ってもらいたい(笑)。足りないなんてもってのほかで、もっと食べてほしい、もうちょっとだけ食べてほしい。足りないことのないように、なんだったらちょっと残るくらい満腹にして、お土産も持たせて帰したいと思ってしまう。