ピープル
神崎恵「もう、メイク落としていいですか?」

神崎恵「逃げるのも自分がヘルシーでいるために大切なひとつの手段」【もう、メイクを落としてもいいですか? vol.29】

美容家・神崎恵さんによる連載「もう、メイクを落としてもいいですか?」。第29回目は「逃げる」という題でお届けします。

vol.29「逃げる」

「向き合う」。今まで結構な頻度で使ってきた言葉だ。自分の気持ちと向き合いましょう。肌と向き合いケアしよう。コンプレックスと向き合いましょう。

でも今、この言葉が心地悪い。自分の口から出ることはほぼなくなったけれど、耳にするたび、目にするたび、回路がぱつんと止まる感じだ。頭の中に「。」が打たれ、数秒間ざらざらとした時間が流れる。この数秒。「向き合うってなんだ?」「え、それってしんどくないか?」「なんかもう、それじゃないんだよね」という感情がもぐらたたきのように、心の毛穴のようなところからふつふつと吹き出てくるのがわかる。「向き合いましょう」だなんて、難しいことを押しつけてくるもんだな。と、もやりとする。

生きていく中には、「向き合わなくていい」ことが結構多くある。例えば、先に出た「コンプレックス」。“コンプレックスとは、向き合って、克服して、自分をすきになりましょう”という類のフレーズ。自分への不満や、他人や親、ときに友人の何気ないひとことに心えぐられた経験。そのヒリヒリとした痛みが数層にも重なり塊になったコンプレックスは、ちょっとやそっとじゃ流れていかない。観察すればするほど、向き合えば向き合うほど塊は硬くなる確率のほうが高くなるものだ。見ないふりをしてほかに目を向け切り替えたほうがよっぽど楽になれる。
合わないひととも向き合わない。距離をとったり、全力で逃げることも心の健康のために重要だと知った。学校や職場で、どうしても関わらなければならないなら、極力目線は合わないようにするとか、実質的な距離や壁をつくるとか。対面してわかり合うという選択肢は、もうずっとずっと下のほうでいい気がしている。友人夫婦の話では、「言葉も考え方も生活もまったく違うから向き合うたびに殺したいほどムカつく」けど、敵が現れて、その敵を倒そうと夫婦で同じ方向を向いたとたん「なんかいい関係」になるんだとか。対面せずにおんなじ方向を見据える。たしかに、向き合うよりずっと楽で気持ちがいい。
次のページ>>見えすぎるより、横目に気配を感じるくらいが…  
18 件

キーワード

急上昇キーワード

新着記事

あなたへのおすすめ