自分で決める自由がない町に僕はまったく魅力を感じない
クセの強いキャラクターも、つかみどころのない青年も、サラリと体現してしまう中村倫也さん。最新の主演映画『人数の町』では、芝居を感じさせない自然な佇まいで奇妙な物語に溶け込んでいる。彼らしいニュートラルな視点で、作品への思いを語ってくれた。
シャツ¥89000、ジャケット¥61000/Children of the discordance(STUDIO FABWORK) パンツ¥33000/ato(Sian PR) その他/スタイリスト私物
【PROFILE】中村倫也
1986年12月24日生まれ。東京都出身。NHK連続テレビ小説『半分、青い。』、ドラマ『凪のお暇』など代表作多数。今年も主演ドラマ『美食探偵 明智五郎』や主演映画『水曜日が消えた』が話題に。今後は出演映画『サイレント・トーキョー』や『騙し絵の牙』などの公開を控えている。
話題になってほしいけど話題になりすぎるのは怖い
そこは衣食住が保証されていて、気軽にセックスを楽しめるルールもある。だけど一度足を踏み入れたら、決して離れることができない……。
映画『人数の町』では、そんな奇妙な町で暮らす住人たちの交流が描かれている。中村倫也さんが演じる主人公の蒼山も、借金で首が回らない現実から逃げるように、その町に足を踏み入れた。
「本当に、蒼山は何も考えてないヤツなんですよ。自分の軸となる価値観や行動原理を持たずに、流されて生きている。だから、後先を考えず誘われるままに『人数の町』に行ってしまうわけで。
その人間性に共感はできないけれど、役者として理解することはできます。役作りにおいては、彼の浮遊感を説明的な芝居で表現しようとするのではなく、それこそ余計なことを何も考えず、目の前で起こることに純粋に反応することを意識していました」
負担の大きい労働や人間関係のしがらみから解放されれば、ストレスや悩みとは無縁の日々が送れるかもしれない。だけど、それで幸せになれるとは限らない。もし実際に劇中のような町が存在しても、中村さんは「僕は絶対に行かない」と言い切る。
「だって、なんか癪(しゃく)じゃないですか。人生で、何をして、何をしないのか?それを自分で選ぶ権利があることが“自由”なんだと思うし、どんなに安定していても、ひたすら与えられたエサを受け取るだけの毎日は、僕の性分に合わないな。
だから、俳優という不確かな仕事をしているのかもしれません。でも、自由に生きられることに苦痛を感じる人もいるでしょうし……自由って何なんでしょうね?」
“自由”や“幸せ”の基準は人それぞれ。この映画は、さまざまな観点で議論を巻き起こしそう。
「皆さんが、どういう風に受け取るのか? それを知ることを一番楽しみにしています。率直に言うと、話題になりすぎても怖いんですよ。もちろん興行だから、たくさんの人に見てもらいたいんですけど(笑)。
劇場を出るときに、ひとつのフィクションとして受け入れてくれる人が多い国のほうが安心できる気がします。どうなることやら……。蓋を開けてみないとわからないので、公開日が待ち遠しいです」
Q.中村さん流「やる気スイッチ」の入れ方は?
休みの日を充実させたいときは、午前中に掃除をすることが多いです。部屋がキレイになると頭も整頓されて、活動的になれる気がするので。僕は魚を飼っているので、水槽の掃除に没頭する時間も好きです。
INFORMATION
『人数の町』9月4日~公開中
借金取りに追われ暴行を受けていた蒼山は、黄色いツナギを着たヒゲ面の男に助けられる。その男は蒼山のことを“デュード”と呼び、「居場所」を用意してやるという。その男に誘われ辿り着いた先は、衣食住が保証された奇妙な「町」だった……。
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撮影/田形千紘 スタイリスト/戸倉祥仁(holy.) ヘア&メイク/Emiy 取材・文/浅原聡 ※再構成 with online編集部 ※情報はwith2020年10月号発売時点のものです。