小山内を演じることがとにかく辛かった

僕が演じた小山内は事故で妻と娘を失ってしまうので、どうしても悲しくなるような描写が多いのですが、でも、気持ちが温かくなる場面もあって。全部観た後に、一歩踏み出そうと思えるような映画になっていると感じました。複雑な要素を見事にまとめてくれた廣木監督の手腕に脱帽しましたね。
――それだけ小山内に深く感情移入してしまった、と。
僕にも妻と娘がいて、あまりにも小山内と自分が似ていたので、最初に台本を読んだ時点で重い気持ちになってしまいまして。小山内と同じ状況になったら、誰だって現実を受け入れられないし、精神的につらくなってしまうと思います。実際に、撮影用のセットではあるものの、遺体安置場で変わり果てた妻と娘に対面するシーンでは、言葉では言い表せない感情になりました。「これはダメだ!」って思って、一旦、その場から立ち去った記憶があります。
ありがたいことに、今回はほぼほぼ物語の時系列に沿って撮影を段取ってくれたんです。最初に若い頃に家族と過ごした幸せな日々を撮影して、後半は一人で孤独と向き合っていく。僕としては気持ちが作りやすかったですし、50代の小山内を演じる段階ではすっかり精神的にすり減っていて。撮影現場でスタッフさんから「老けましたね」と言われたことがあって、最初「え?失礼な!」と思いましたけど、あ、そうだ役で老けたんだと後で気づきました(笑)。
――それほど精神的に追い込まれる役柄に挑戦したいと思った理由とは?
自分で言うのも何ですが、僕はこんなに愉快で面白い人間だけれど、俳優としては“重い”役柄をいただくことが多かったんです。そういう役柄って、やっぱり勇気がいるんですよ。辛くなってしまうので。でも僕にとって、この作品は重いだけではなかったんです。小山内は劇中で、「自分の娘が他の誰かの生まれ変わりだったのかもしれない」という話を聞かされます。そして、数々の不思議な出来事に巻き込まれていくのですが、最初に言ったように、映像を観て最終的に僕はポジティブな気持ちになれたんです。希望を見出せる物語だったからこそ、小山内を演じる覚悟を持てたのかもしれません。重いだけだったら、引き受けられなかったですね。