インタビューの後編は、鈴鹿さんが出演した映画『ロストケア』での様々な“学び”について話を聞いた。『ロストケア』は、介護士でありながら42人を殺めた殺人犯・斯波宗典(松山ケンイチ)とその彼を裁こうとする検事・大友秀美(長澤まさみ)、それぞれの「正義」を問う人間ドラマだ。一見、重いテーマのように感じられるが、鈴鹿さんは台本を読みながら、「自分が映像を観たときに、何を正義と思うのだろう」ということが気になったという。
「僕らの世代にとっては、正直、介護というのはまだまだ遠い現実です。見ようとしなかったら見ない場所なのかもしれないけど、そこにちゃんと向き合っていこうとする映画で、僕的にはこの映画を観てすごくヘビーな部分は感じたものの、最後はすごく前向きな気持ちになれたんです。介護の大変さがこれでもかっていうほど描かれていますが、その辛さや苦しさを、ネガティブな方向に引きずるんじゃなく、『自分だったらどうするだろう?』とか『家族内で何か問題が起こったときは、ちゃんと家族と向き合わなきゃいけないな』とか。もっと言えば、『ちゃんと生きよう』とか、そういうふうに思えて……。世の中に色々山積みされている問題があって、僕らはまだ『自分には関係ない』って目を背けがちだけど、『自分だったら』って1回考えることは、本当に大事だなって感じました。すぐに答えを見つけようとしなくても、ゆっくり考えていけばいいんだって」
出来上がった映像を観たときは、想像していたより、「斬波の正義」に共感している自分がいた。『ロストケア』には様々な事情を抱えた家族が登場するが、リアリズムを追求した映像は壮絶で、鈴鹿さん自身、目を背けたくなるようなシーンもあったらしい。
切実さが胸に迫るのが“映画の力”
「映像で観ると、『これは介護する側が精神的に追い込まれても仕方がない』と思いましたし、台本で読んでいるとき、正義は検察側にあると思っていたのが、映像を観て一気に斯波の気持ちが伝わってきたというか……。斯波のやっていることは人殺しなんだろうか、人助けなんだろうかっていうのがわからなくなってくる感覚がありました。その切実さが胸に迫ってきたのは、まさに“映画の力”なんだろうなと思いました」
斯波役の松山ケンイチさん、大友役の長澤まさみさんがそれぞれの正義を巡って対峙する中、鈴鹿さん演じる検察事務官の椎名が、静かに涙を流すシーンがある。何気ない場面なのだけれど、二つの正義の間にあるニュートラルな感情が清冽に映し出されるのは、鈴鹿さんが演じているからこそだ。
「あのシーンは、2人のお芝居とは別に撮ったものなんです。長澤さんと松山さんのやりとりはものすごい迫力で、その時点では圧倒されていたんですが、僕の表情の前に、斬波の介護の映像が挟まれるということだったので、僕は、先に撮った介護の映像を観せてもらって。そこから表情の撮影に入りました。あのすごいお芝居の間に挟まれるんだから、迷惑はかけられないと必死でしたが、完成して繋がった映像を見ると、確かにあそこで泣いてるのは、意味のあるシーンだったのかな、と。たぶん、観客として観ても、僕だったらあのタイミングで泣いてしまうと思うんです。それまで検事側の視点に立っていた椎名が、斯波の話を聞いて、初めて自分の中の正義が揺らいだ。それは確かに、観ている人側の視点としてもそうじゃないのかなと思いました。もしかしたら、劇場で、僕の涙とお客さんの涙がシンクロするかも知れないなって」
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