わたしが27歳だったころ。
様々な分野で活躍する大人の女性たちにも、私たちと同じ、27歳のときがありました。「わたしが27歳だったころ」と題して、彼女たちが当時、何に悩み、どんな努力をしてきたのかを伺ってきました。センパイたちの経験から、素敵な大人に近づくヒントが見つかるはず!
映画監督 河瀨直美さん
『萌の朱雀』にて第50回カンヌ国際映画祭、カメラ・ドール(新人監督賞)を史上最年少で受賞。
27歳にして全世界からの注目を一身に集めるような体験をした河瀨さんは、誰もが夢見る世界の中心にいながら、次第に居心地の悪さを感じるようになったという。そんな折、自分の中にある真実に気づかせてくれる“生きた言葉”と出会った。

世界に表現活動を広げる一方、故郷奈良において「なら国際映画祭」をオーガナイズしながら次世代の育成にも力を入れている。2025年大阪・関西万博テーマ事業プロデューサー兼シニアアドバイザー、バスケットボール女子日本リーグ会長、ユネスコ親善大使を務める。総監督を務めた記録映画『東京2020オリンピック』は2022年6月公開。
すべては“好きこそものの上手なれ”。何が本物で何が真実かは、自分で決めればいい。27歳がどんな時期かだって人それぞれです
当時から面識のあった撮影監督が、手書きの脚本をワープロで打ち直してくださって。しばらくしてWOWOWのプロデューサーから、「映画にしませんか?」というオファーが届きました。バジェットは3000万円。当時の私では逆立ちしても貯められない金額です。「やった!」と思いました。
『萌の朱雀』は、ドキュメンタリーばかり撮っていた私にとっての、初めての長編映画です。使える時間は全てその映画に注ぎ込みたかったので、奈良の自宅から通えるところをロケ地にしました。
主演の尾野真千子さんもまだ素人でしたが、撮りながら、何より彼女の成長ぶりにワクワクさせられました。いとこの兄ちゃんから、「お母さん、倒れたで」と言われて走り出すシーンがあるんですが、台本には「走り出す」とは書かれていなくて。“走る”という衝動は、彼女の中から自然に湧き上がったものでした。
その瞬間をフィルムに収められた時、「映画っていいなあ」って心から思えたんです。映画を撮ることによって、本来は何もないところから、思いがけない感情や衝動が生まれてくる。そこに、人間の真実があるんじゃないかと思いました。