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土屋太鳳「どうしても受け入れられなかった」出演を三度断った理由、そして演じて感じたこと【映画『哀愁しんでれら』インタビュー】

まるで王子様のような完璧な男性と結婚――。童話では「めでたし、めでたし」となるけれど、本当に“その後”は幸せになったのだろうか……? 2月5日に公開となった映画『哀愁しんでれら』は、そんな幸せな結婚の“その先”が描かれている。

不幸のどん底から一気に幸せの絶頂へ駆けあがる、まさに“シンデレラ”となる主人公・小春を演じるのは国民的女優の土屋太鳳さん。真面目で普通だった女性が、幸せになれると思っていた「結婚」によって、次第に追い詰められていく姿を見事に演じ切っている。今回は土屋さんに本作の魅力や小春を演じての想いなど、たっぷりお話を伺った。前編では、オファーを三度断った理由や、演じた小春について。

「衝動を抑えながら生きてきた小春の気持ちはわかるような気がする」

――映画『哀愁しんでれら』では、主人公・小春の純真さが狂気に染まっていく姿にぞくぞくしました。土屋さんは小春役のオファーを、三度断られたんですよね。

土屋太鳳さん(以下、土屋) 本能的に警戒してしまうような内容だったので……。映画のキャッチコピーにも「なぜこの真面目な女性は、社会を震撼させる凶悪事件を起こしたのか」とありますけど、小春が起こしてしまう事件が、どうしても受け入れられなかったんです。渡部(亮平)監督が書かれた台本が、あまりに緻密に計算しつくされているように感じたのも、引っ掛かりのひとつでした。

――計算、というのは?

土屋 人って、誰かの不幸を覗きみるとき、いけないことと分かりつつも妙な高揚感を抱いてしまう瞬間があると思うんです。見てはいけない、おもしろがってはいけないと思うほど、好奇心をくすぐられてしまう。そういう、人の感情を絶妙にくすぐってくる台本だな、と。

――それを感じとったからこそ、警戒心が沸き起こったんですね。

土屋 たぶん、そうだと思います。でも、監督が「どうしても土屋さんに演じていただきたい」とおっしゃってくださったんです。Siaの『アライブ』日本版MVで踊っている私を観たのがきっかけらしいのですが、あれは私自身、とても苦しい時期にいたからこそ表現できた激しさで、ああいうテイストが得意というわけでもないので、同じことを求められたらどうしよう、と不安でしたね。

でも監督は、まったく同じことをやってほしいわけではない、と伝えてくださって。私が最初に感じたように、視聴者に届けるための計算がしっかりなされた物語だということ、そして、その物語をどうにかして成立させたいという監督の熱い想いをうかがっているうち、少しずつ覚悟が決まっていきました。
――児童相談所で働く小春は、幼い頃、母親に「あなたのお母さんはやめました」と言われて出ていかれた悲しい過去を経験しています。だからこそ、父親と高校生の妹を支えながら「幸せな家庭を築きたい」という気持ちも人一倍強い女性です。

土屋 小春は傷を抱えているけれど、ごく普通の女の子。ただ、いろんな我慢を積み重ねているうちに、たまりにたまったものが爆発して、信じがたい行動に出てしまったんだろうな、と思います。私個人としては、小春が起こしたことは演じ終えた今もとうてい受け入れられないし、納得できるものではありませんが、衝動を抑えながら生きてきた彼女の気持ちはわかるような気がします。

――たとえば?

土屋 そうですね……。私は、20代前半に女子高生の役を演じることが多かったんですけれど、どんなに“普通”に見える人でも、みんな「本当はこういうふうになりたかった」「あんなふうにされたのがいやだった」みたいに不安や悲しみを押し殺して懸命に生きているんですよ。「本当の自分」と「現実の自分」とのギャップ……言いたいことをうまく伝えられないとか、理想に追いつけないとか、いろんなギャップに苦しみながら、どこかで諦めて折り合いをつけて生きている。でも、どんなに見ないふりをしていても、無視できない感情というのもあって。小春の場合は「自分の価値を認められたい」「素敵な人に出会って、大切にされたい」という願望だと思うんですけれど。

――だから、王子様のように自分を愛し守ってくれる、田中圭さん演じる大悟との結婚生活にしがみついてしまった。

土屋 お母さんに捨てられて、恋人にも浮気されて、どん底のときに出会った相手ですしね。大ちゃんは優しいし、娘のヒカリちゃんも懐いてくれるし、急な結婚だけど、うまくいくって信じていたと思うんです。でも、二人に愛情が伝わるよう、大切にしようと必死に向き合った結果、状況はかえって、ゆがんでしまった。

――学校で、ヒカリを盲目的に庇い、「子供を守るために親はなんだってするの!」と叫ぶ場面がありましたよね。あのシーン、すごくよかったです。そういうことにしておかなければ耐えられないほど追い詰められている、小春の狂気が感じられて。

土屋 本当に守りたいなら、ちゃんと叱らなくちゃいけないし、間違えたら正すのが親の役目だと思うんです。でも、ヒカリにそれは通用しない。がんばればがんばるほど、自分の家庭での立場が悪くなっていく。だから、理想を捨てて、ヒカリと大ちゃんがよしとしてくれる自分であろうとする……。それを正解だとは思わないし、観た方にそれがリアルだとも感じてほしくはないんですが、良心を捨ててでも大切な人と過ごす日常を守ろうとする彼女の想いには、共感していただけるんじゃないかと思います。
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