講談社コミック『Kiss』で圧倒的共感を得た小島慶子さんの等身大エッセイがついに書籍化しました!!
私たちはもっと気楽に生きられる――。比べなければ、ほら、堂々と私の顔で立っている。みんな、「絶対値」で生きよう、一緒にさ。仕事人・母・妻として小島慶子さんが感じたココロ60選が収録されています。
with onlineではその中から、with読者向けに抜粋したコラムを、水・金の週2回配信! 今回は「埋蔵セクシー」がテーマのコラムをお届けします。
私たちはもっと気楽に生きられる――。比べなければ、ほら、堂々と私の顔で立っている。みんな、「絶対値」で生きよう、一緒にさ。仕事人・母・妻として小島慶子さんが感じたココロ60選が収録されています。
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『絶対☆女子』著:小島慶子 発売日:2017年12月13日 定価 :本体920円(税別)
埋蔵セクシー
それまでなんとも思っていなかった人が、急にエロめいて見えてしまうことがあります。この前久々にまたそんな瞬間がありました。
ずっと一緒に仕事をしているスタッフの一人で、いつも柔和で声も小さく、小柄でいかにも文系という感じの見た目の男性がいます。年の頃は、私より少し上の45歳ぐらい。佇まいがいかにも植物系ノンケミカルっていう感じで、とても信用できる人ですが、セクシーだと思ったことはありませんでした。
その人が転勤するというので、引き継ぎを兼ねてスタッフのみんなでランチをしたときのこと。彼の来歴を私は何も知らなかったのですが、なんと中学から大学までずっと柔道をやっており、大学では体育会柔道部の主将を務めていたというではないですか。
風速15メートルでポテッと倒れてしまいそうなイメージなのに、柔道の猛者とは。しかしよく見れば確かに激しい稽古で耳が変形しています。フチなしの眼鏡の奥の大人しそうな小さな目が、にわかにキラリと光ったような気が。
そうか、彼の静かでもの柔らかな態度は、肉体的な強さに裏打ちされた余裕だったということか。いつもゴルフシャツをパンツにインしてきっちりベルトを締めているスタイルなので見落としていたけど、お腹も出ていないし、ヒョロヒョロというわけでもありません。ぬるい黄色とグレーのボーダーのゴルフシャツの下には、意外と無駄のない体があるのかもしれません。
やたら肉体コンシャスな体育会系は鬱陶しいもの。だけど彼のように、強い体を誇示することなく、むしろ静かな佇まいなのは、よほど自分の身体能力や仕事の才能に自信がある証拠なのではないかと、ぐっと妄想を搔き立てられてしまったのでした。
20代の頃は、浅はかでした。地方の大学に通っていた当時の彼氏が就職して東京に出てきて、ハチ公前を知らず、しかもラガーシャツをデニムにインしていたというだけで、嫌いになってしまったのですから。東京でもいつもの通りの格好でやってくるその大らかさが、今となってはかなり好感が持てます。どうして気づかなかったのかなあ。バカだったなあ。
今回もどうして見落としていたのでしょう。俄然興味を持っていろいろと観察し始めた私の眼差しに居心地の悪さを感じたのか、植物系柔道男子はやや引き気味です。これといって会話も弾まず、そのまま転勤していきました。
それでいいのです。40代ともなれば、恋愛するのもかなりの体力を使うしね。そんな面倒ごとを抱え込むより「私はまだまだ世間知らずであった」とじっと思考を巡らせるほうが、人間に対する眼差しが深まる気がします。そして何よりそのほうが、断然エロいと思うのです。若い頃には掘り起こせなかった埋蔵セクシーを、思いがけず掘り当ててしまった高揚感。何だか尾をひく夏の大発見でした。
ずっと一緒に仕事をしているスタッフの一人で、いつも柔和で声も小さく、小柄でいかにも文系という感じの見た目の男性がいます。年の頃は、私より少し上の45歳ぐらい。佇まいがいかにも植物系ノンケミカルっていう感じで、とても信用できる人ですが、セクシーだと思ったことはありませんでした。
その人が転勤するというので、引き継ぎを兼ねてスタッフのみんなでランチをしたときのこと。彼の来歴を私は何も知らなかったのですが、なんと中学から大学までずっと柔道をやっており、大学では体育会柔道部の主将を務めていたというではないですか。
風速15メートルでポテッと倒れてしまいそうなイメージなのに、柔道の猛者とは。しかしよく見れば確かに激しい稽古で耳が変形しています。フチなしの眼鏡の奥の大人しそうな小さな目が、にわかにキラリと光ったような気が。
そうか、彼の静かでもの柔らかな態度は、肉体的な強さに裏打ちされた余裕だったということか。いつもゴルフシャツをパンツにインしてきっちりベルトを締めているスタイルなので見落としていたけど、お腹も出ていないし、ヒョロヒョロというわけでもありません。ぬるい黄色とグレーのボーダーのゴルフシャツの下には、意外と無駄のない体があるのかもしれません。
やたら肉体コンシャスな体育会系は鬱陶しいもの。だけど彼のように、強い体を誇示することなく、むしろ静かな佇まいなのは、よほど自分の身体能力や仕事の才能に自信がある証拠なのではないかと、ぐっと妄想を搔き立てられてしまったのでした。
20代の頃は、浅はかでした。地方の大学に通っていた当時の彼氏が就職して東京に出てきて、ハチ公前を知らず、しかもラガーシャツをデニムにインしていたというだけで、嫌いになってしまったのですから。東京でもいつもの通りの格好でやってくるその大らかさが、今となってはかなり好感が持てます。どうして気づかなかったのかなあ。バカだったなあ。
今回もどうして見落としていたのでしょう。俄然興味を持っていろいろと観察し始めた私の眼差しに居心地の悪さを感じたのか、植物系柔道男子はやや引き気味です。これといって会話も弾まず、そのまま転勤していきました。
それでいいのです。40代ともなれば、恋愛するのもかなりの体力を使うしね。そんな面倒ごとを抱え込むより「私はまだまだ世間知らずであった」とじっと思考を巡らせるほうが、人間に対する眼差しが深まる気がします。そして何よりそのほうが、断然エロいと思うのです。若い頃には掘り起こせなかった埋蔵セクシーを、思いがけず掘り当ててしまった高揚感。何だか尾をひく夏の大発見でした。


<B>小島慶子さん</b><br>
タレント、エッセイスト。<br>
仕事のある日本と、家族と暮らすオーストラリアのパースを3週間ずつ往復する出稼ぎ生活。『るるらいらい』(講談社)、『解縛』(新潮社)、小説『わたしの神様』(幻冬舎)、小説『ホライズン』(文藝春秋)など著書多数。
12月13日より好評発売中!
絶対☆女子 | 小島 慶子 |本 | 通販 | Amazon

著:小島慶子 発売日:2017年12月13日 定価 :本体920円(税別) 単行本(ソフトカバー): 192ページ 出版社: 講談社
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