私たちはもっと気楽に生きられる――。比べなければ、ほら、堂々と私の顔で立っている。みんな、「絶対値」で生きよう、一緒にさ。仕事人・母・妻として小島慶子さんが感じたココロ60選が収録されています。
with onlineではその中から、with読者向けに抜粋したコラムを、水・金の週2回配信! 今回は「女の視野はウマより広い」がテーマのコラムをお届けします。

女の視野はウマより広い
先日、街で偶然知人に出会いました。6年ぶりの再会です。わ、久しぶり? どうしてたの? なんて盛り上がったのですが、速攻で「その指輪、新しいでしょ!」と指摘されてびっくり。6年前の私の持ち駒までよく覚えてたな……。実際それはつい最近、結婚10周年に夫がくれたものでした。
しかも恐るべきことに彼女は大変な目利きで、ブランドロゴも何もない指輪を見て「ねえこれ、結婚指輪と同じ店のでしょ」と。確かに、その通りです。10年前と同じ店で買いました。リサイクルショップの鑑定士になれるよ、あなた。
すると彼女は、「あのね、あそこのお店には私の古株の担当がいて、最近、時計の修理をお願いしたのよ」と言うではありませんか。いや、あの店の時計って200万円ぐらいするでしょ。
そう言えば10年前、私の真新しい結婚指輪を見た彼女が、すぐに同じ店で同じデザインの、一回り石の大きいものを買ったんだっけ。「自分で買ったのよ」と右手に光る指輪を見せてくれたのですが、デザインがよほど気に入ったんだなと思いつつ、珍しいことをする人だな……と印象に残りました。
そして10年経って、また私の新しい指輪に気がついたとき、彼女は時計の話をしたのです……ははーん、「私はあなたの指輪より値の張る時計を以前から使っていて、あの店でVIP扱いされているのよ」と言いたいんだな。まじか、6年ぶりの再会で、いきなり持ち物比べか。スピード査定も勝利宣言も怖すぎるよ!
こちらが再会の偶然にはしゃいでいる隙に、素早く全身チェックし指輪を発見、ブランドを特定して価格をはじき出し、勝利宣言までわずか5分。しかも「久しぶり、元気? 偶然だね、今日はお買い物?」などと淀みなく話をしながらの匠の技です。その後もあらゆる話題でかぶせるように返してくる彼女が怖くなり、早々に会話を切り上げて退散。今度ランチしようねー、って手を振り合ったけど、絶対いやです。
10年前も今も、彼女はただ「私はあなたより上」と言いたかったんだなあ。きっと周りの誰に対しても、忙しなく格付けセンサーを働かせているのでしょう。でもそれって一体、何のために? のんびり思い出話なんてしようと思った私は、甘かった。去っていく知人の後ろ姿を見ながら、「辻斬りに遭うって、こんな感じかな……」と思ったのでした。


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