小島慶子「“私にはなんのとりえもない”と思ってしまうときに」『思いがけず利他』(中島岳志)

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40年前、私たちの親の時代には【子どもがいる世帯は7割】でした。ところが今は【子どもがいない世帯が6割】。社会は大きく変わっているはず? ……と思いきや、給料は上がらないのに物価は上がり、男女の賃金格差と雇用格差はあいかわらず。暗くならざるをえない状況だけど、どうしたら少しでも豊かな人生を送れるのか、家族や友人たちとどう楽しい時間を持てるのか、小島慶子さんと考えていく連載です。

今回は、皆さんを勇気づける本をご紹介します。「私ってなんのとりえもないな……」なんて、ふと誰かと自分を比べて思ってしまうことはありませんか? そんなあなたにぜひ読んでほしい1冊です。

連載第8回【小島慶子 明日の空模様 】〜あなたのそばにいる本②『思いがけず利他』(中島岳志/ミシマ社)

「利他」は「利己」の反対。他人の利益のために何かをすることです。お説教くさい話ではありません。これは、自分探しに疲れた人や「私には何の取り柄もない」と悩む人の気持ちを明るくしてくれる本です。不安な時代に、どんな態度で生きればいいのかを教えてくれます。将来が気になってつい占いにハマってしまっている人なんかにもぴったりです。あなたが誰に救われているか、そして誰を救っているかという、世界のカラクリがわかるかもしれません。

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「私にはなんのとりえもない」と思ってしまうときに

著者の中島岳志さんは政治学者としてメディアでも数多く発言していますが、学生時代は主にインドで話されている言語、ヒンディー語を研究していました。仏教や哲学、落語にも詳しく、この本の中には親鸞や立川談志の言葉がたくさん引用されています。……おおっと、画面を閉じないで。親鸞と立川談志が誰かを知らなくても全く問題ありません。中島さんは親切な方なので、詳しくない人にも大事なことがちゃんとわかるように書かれています。

本を読む時には、知識は武装のためにあるのではないと覚えておくと安心です。文の中に知らない人名が出てきても「へえ、そういう人がいるんだな」と気にせず話を読み進めてOK。なぜなら肝心なのはその人を「知っている」ことではなくて、「知る」ことだからです。親鸞と立川談志も知らないのか?! などと言うのは、知識で武装して「どうだ」と言いたいだけの人。中島さんはそうではないので、この本は誰にでも開かれています。この「開かれている」というのは、私たちが生きる上でも大切な態度です。

さてさて。中島さんは、この本の中で“与格構文”(よかくこうぶん)という、ヒンディー語の独特の文法について面白い考察をしています。ヒンディー語では自分の意志や力が及ばない現象については「〇〇が自分にやってきた」という言い方をするのだそうです。

「私は嬉しい」ではなく「私に嬉しさが留まっている」。「風邪をひいた」ではなく「私に風邪が留まっている」。愛もそのように言い表すことがあるそうです。その状態を中島さんは「愛しちゃったのよ」という日本語で説明しています。確かにありますね、そうしようと思ったわけではないし、そうさせられたわけでもないけど、そうなっちゃった。

このような、自分で自分をコントロールできることばかりではないという考え方、自分はどこからかやってくるものの「器」に過ぎないのだという態度が、生きる上でとても大切だと中島さんは示唆します。引用されている染織家の志村ふくみさんや料理研究家の土井善晴さんの言葉を読むと、なぜか深い安らぎを覚えます。

志村さんと土井さんは、いいものを作ってやろう、これは自分の作品だという意識ではなく、ただどこからか自身に訪れるものを受け取り、布を染め、料理を作っている。そこには「努力すれば、なんでも自分の思い通りにできるはずだ。結果は全て自己責任」とする新自由主義的な生き方論とは正反対の、豊かな世界があります。

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小島慶子「明日の空模様」

「小島慶子「明日の空模様」」に関する記事をまとめたページはこちら。 with classでは、教育・住まい・時短術をメインに、暮らしをラクに豊かにする、共働き夫婦向けのトピックを発信中。

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